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第1回ベン・ウイダー賞受賞

日本ボディビル・フィットネス連盟玉利齊会長 インタビュー

IM:『第1回ベン・ウイダー賞』受賞おめでとうございます。昨年の世界ボディビル選手権の会場で受賞されましたが、事前に知らされていたのですか?

玉利
全然知りませんでした。大会前のIFBB総会の時も何も言われなかったんです。ある階級の表彰式のプレゼンターをやってステージから下りたら、IFBB会長のサントンハから、次はミスター玉利を表彰するからステージにもう一度上がってくれと言われて、何のことか分からず出て行ったら、彼がベン・ウイダー賞の設立を発表し、第1回は日本の玉利に与えると。まさに抜き打ちですよ(笑)。

IM:玉利会長が受賞されたのには、大きな2つの理由があるとお聞きしました。一つは、アンチドーピングをボディビルの中で徹底したということ。もう一つはボディビルを競技としてのボディビルだけではなく、健康的なライフスタイルとして広く社会に普及することに務めたということですね。

玉利
私が昔から言ってきたことですが、ボディビルは競技として、まずはルールを守ることが必要です。特にドーピング検査は徹底しなければいけません。そして頂点の選手だけではなく、各々の年齢や体力、さらに健康に応じたウエイトトレーニングを取り入れることが大切です。サントンハはボディビルをオリンピック競技にすることを推し進めていますが、それと同時に“ヘルシーライフスタイル”、いわゆる健康的なライフスタイルが大事だとよく言っていました。
私はJBBFのリーダーとして方向性を示さなければならない。ボディビルが人間の文化として、健康の面からも素晴らしいものであり、スポーツとしての立場を確立したいという方向でやってきました。今まで日本連盟では常務理事から始まって、専務理事、副会長、会長とずっとやってきて、日本のボディビルが目指すものはこういうものだという考えが世界にも自然に通用してきて、各国の会長が今私と同じ方向を向いて、オリンピック種目に入れようじゃないかという方向になってきています。サントンハもこの方向を推し進めたいということで、この賞を設けたのでしょう。

IM:オリンピック種目を目指すとなると、とにかくドーピングは根絶しなければいけない課題だと思います。これまで日本人選手はボディビルの国際大会で一度もドーピング違反者を出していませんが、他の国ではありえないことだそうですね。

玉利
ドイツ連盟会長のアルバート・ブセックからは「日本はいつもクリーンだ。一人も陽性者がいないのは本当に不思議だ」と言われます。IFBBがドーピングテストを取り入れてルール化したのは1986年です。東京で初めてIFBBの世界選手権をやった年です。それから30年くらいたちますが、日本は必ずドーピングテストを受けてクリーンな選手を国際大会に送っています。現地で抜き打ち検査にあっても全く問題ありません。正直、他の国では陽性者が数え切れないくらい出ています。それは今に始まったことではありません。
例えば全盛期の小沼敏雄君は、世界大会では7位くらいまでしかいけませんでしたが、周りがみんな薬を使っている中で、彼はクリーンで戦っていたということを皆知っているわけです。先ほどのアルバート・ブセックも「こうでなくてはダメだ」と当時から言っていましたよ。

IM:ドーピング検査を最初に導入したころのお話を聞かせていただけますか。

玉利
1986年の世界選手権を日本で開催するにあたり、ベン・ウイダーから「これからボディビル競技を健全に広めていくためには、ドーピング検査をしなくてはならない。今度の世界選手権から実施したい」と言われたのです。そこで相談したのが当時の体協(日本体育協会)医事部の黒田善雄先生。黒田先生はオリンピックの日本選手団の顧問医としてIOC(国際オリンピック委員会)からも高く評価されていた医学博士です。黒田先生からは、喜んで協力するという返事をもらい、同時にベン・ウイダーが、IOCのメディカルコミッティ委員のドニケ博士に協力してもらう約束を取り付けました。
この二人が当時のIOCでドーピングの研究や検査システムの第一人者とされていました。その結果、ボディビル界で初めてのドーピングテストがオリンピックレベルの豪華な布陣で行うことができたのです。

IM:世界選手権の日本代表を決める予選でドーピング検査を実施したそうですね。

玉利
残念ながら国内予選でドーピングに引っかかってしまった選手が数名出てしまいました。陽性になった選手のうち、ある1名が不服だと異議を唱えて、アジアボディビル連盟まで巻き込んで、疑義あり、と訴えてきたこともありました。当時のアジア連盟の専務理事が日本に調査に来るとまで言い出して、これにはさすがにカチンときました。それでベン・ウイダーに状況を手紙で説明したところ、「問題なし。IOCが認定している検査機関で正式に検査をしているのだから、調査の必要もなし」と返事が来ました。

IM:予選で検査を行うことで、クリーンな選手を日本代表として出場させるというのは、ドーピングテスト導入の最初の年から実施されていたのですね。

玉利
東京で開催した世界選手権で行ったドーピング検査は日本だけでなく、世界のボディビルでも初めてのテストでした。その結果、全カテゴリー出場者200何十人のうち、なんと30人以上の陽性が出てしまったんです。10%以上ですから、あまりにも多過ぎです。それくらい当時のボディビル界ではドーピングが当たり前のこととされていたんです。この時代にベン・ウイダーがドーピングテストに踏み切ったというのは大変な勇断です。

IM:ひとつの大会で30人以上も陽性が出たというのは驚きです。

玉利
陽性者が多数出たことで、世間的には、「ボディビルはドーピングがひどいスポーツ」とみなされてしまったわけです。そう言われても事実なのだから仕方ありません。しかし、日本選手は国際舞台で誰ひとり陽性者を出していない。これだけは知ってもらいたい。

IM:日本のアンチドーピング活動は国際的にも高い水準ということですね。

玉利
ボディビルはスポーツである以上、ルールとマナーが大事です。また、健康づくりとしての位置づけには医科学的要素がなければいけません。今のIFBBには、うっかりすると、競技としての頂点のみに価値を置く役員も多いです。そういう点では、日本のボディビルはルール、マナー、そして健康づくりという3点を常に包含しながらやっている。医科学的な面で啓蒙するという部分では石井直方教授のような人物も今後さらに活躍していくことでしょう。

IM:日本のアンチドーピング活動は国際的にも高い水準ということですね。IM
今回、ベン・ウイダー賞が設立されたということは、日本のボディビルをお手本にしてほしいと思うIFBBの意思表示だと感じました。

玉利
まさにそうです。サントンハはスポーツとして人々に認められて普及させるためには、オリンピック種目になること、と明確に目標を打ち出しています。そのための方法としては、何よりもまずルールを守らなければいけない。今最も大事なのはアンチドーピング。特にこの部分でサントンハと私は息がぴったり合うわけです。

IM:クラシックボディビルが始まったのもアンチドーピングの一環とお聞きしました。健康づくりという点でボディビルの位置づけはどのようにお考えでしょうか。

玉利
健康といっても、いろいろな角度の考え方があります。食品分野からは、こういうものを食べると健康になると言う。休養の点からも言う。厚生労働省が国民に健康になりましょうといっても薬の能書きのようで、具体的ではありません。その点、ボディビルは健康を目に見えるかたちでシンボライズできるものです。均整がとれて贅肉がなく、引き締まった筋肉が発達した体というのは、健康を象徴するものです。つまり、誰の目から見ても「これが健康だ」と分かりやすく見せることができるのがボディビルなのです。
IFBBが今盛んに打ち出しているのは、皆がボディビルの頂点を目指さなくても、その人の年齢、体力に応じてやれる健康づくりとして、ボディビルを役立ててほしいということなのです。

IM:それを競技化したのがメンズフィジークであり、フィットネスビキニですね。玉利 そうです。あれは明らかに筋肉量という視点で見たら、まだまだ発達の余地が十分あるでしょう。でもボディビルの選手のように筋肉が発達していなくても、日常生活や社会の中で活動するのには十分な健康と体力を備えている体です。まずは健康的な印象が大切。さらにその上の発達を目指すのであれば、ボディビル競技として追求すればいいじゃないかというのがIFBBの考えです。まさに私の考えと一緒ですよ。

IM:フィジークやビキニは今後もっと競技人口が増えていきそうな気がします。

玉利
古代ギリシャの時代から、健全な肉体には健全な精神が宿ると言われてきました。古代の彫刻で男性は肉体美に満ちた写実的な造形で、女性はミロのヴィーナスのようなふくよかな女性美に満ちた体がいまだに芸術として受け継がれているでしょう。今でも画家はヌードを描きます。芸術の分野には肉体美という感覚は明治以後早くから日本に入ってきました。しかし体育の方にはわれわれが「ボディビル」として取り上げるまでありませんでした。昔から肉体の能力を競うスポーツは無数にあります。マラソン、短距離走、その他いろいろありますが、これは能力を競うわけで、肉体自体を競うものではありません。肉体そのものの素晴らしさを競うという唯一のスポーツがボディビルなのです。

IM:海外のプロボディビルの世界までいくと健康とはとても思えないのですが、その点はどのようにお考えでしょうか?

玉利
プロは全く別。はっきり言って現在のプロのボディビルダーの体は人間としての自然なバランスを壊しています。ミスターオリンピアを見てもそこに美しさは感じません。ロボットが動いているようです。私がかねがね言っているのは、体を発達させるという意味での体育、動きのあるスポーツとしての競技性、それと芸術の3つがミックスしたのがボディビル競技だということです。ボディビルは筋肉がでかいだけで勝てるものではありません。やはりスポーツとしての筋が一本通っていないと。スポーツは人間の生んだ文化で、けだものの戦いではありません。さらにそこに美しさがあるかどうか。プロはボディビルの歴史で生まれた流れのひとつです。その流れは支流になっていて、じきに砂漠の中に消えてしまうかもしれない。

IM:玉利会長の思う美しさとはどのようなものでしょうか。

玉利
人間が自然に持っている生命力の輝きこそが、私は美だと思います。ボディビルを追求している選手でそこまで真剣に考えるか考えないかは別に、肉体の美しさを作り上げていく競技ですから、誰しも本能的にそういうものを追っている。大きさ、動き、速さは物理的数量的に測ることができて、数値化できますが、美に優劣はありません。ルノワールとゴッホと、どっちが上だと言えますか?美には見る人の主観が入ります。ただ一様に本物の美というのは、見る人を感動させるものです。その点で最近の鈴木雅選手のポージングは非常に芸術性が高まってきて、間の取り方、動きといい、それこそ日本の能や歌舞伎に通じるような、静寂さから、静と動、完全一体になってきています。
文芸評論家の小林秀雄が、ある評論の中で「本物の美というものは、人をして黙さしめるものだ」と書いています。美しいものを見ると息をのんで静まり返ってしまう。鈴木選手の表現力はその域に近付いてきています。芸術には魂が入らなければいけないんです。ではどうやればいいのかというと、簡単にはできない。その人が長年考えながら努力して積み上げていくなかで表れていくものですから。

IM:それには内面を磨くということも必要になってきますね。

玉利
日本には文武両道という語があります。武だけではダメで、教養豊かな心が必要で、文と武は並行でなければならない。それが敗戦と共に武が失われて、日本が軟弱な雰囲気になってしまった。そのころ、当たり前のように言われていたことが、“青白きインテリ”。インテリは青白い。ペンより重いものは持たないから青白い。ということは逆に頭がいい人は実行力が無くて青白く体が弱い。インテリというのはそういうイメージだったんです。

IM:1956年に玉利会長が作られた早稲田大学バーベルクラブが、世間の注目を浴びるようになり、毎日のように新聞や雑誌が取材に来た時期があったとお聞きしました。

玉利
週刊誌の取り上げられた記事を見て「俺もやったらそんな体になれるのか」と言ってボディビルを始めたのが三島由紀夫さんです。あの人は青白きインテリからたくましきインテリを目指した第一号といえるでしょうね。三島さんが「作家といえば芥川龍之介とか太宰治のように病弱なのが多い。作品が退廃的で非日常的であっても、生活は健康であるべきだ」と言っていたのをよく覚えています。
私も今81歳だけど、普通の人よりは元気な存在だと思います。これはボディビルの恩恵ですよ。アイアンマンで金澤さんと齋藤さんの記事(2015年1月号)があったけれど、あの二人はボディビルで得て来た充実感や健康といった核心に達しているから続いているんでしょうね。爺さんになって隠花植物のように生きるより、さんさんとした太陽のように生きたほうがいい。

IM:健康に役立つボディビルですが、残念ながら世界大会などでは、ドーピングをしていない選手のほうが少ないと聞きます。写真を見ても、海外の選手で明らかに副作用の女性化乳房が目立つ選手もいますが、それぞれの国で代表選手にテストをしてから出場させることはできないのでしょうか?

玉利
検査にはお金がかかります。それを負担するのが厳しい国もあります。日本でも、一人検査するのに30万円くらいかかります。税金でやりたいと思ってもそうはいかない。それにドーピングテストを一挙にやってしまうと、東京で初めてテストをやったときのように、どっと陽性が出てしまう可能性が高い。その結果を社会はどう受け取るか。スポーツ界、行政はどう受け取るか。こんなスポーツは良くないと決めつけられてしまいます。現に、今ワールドゲームズからボディビルは外されてしまいました。その原因は参加種目の中で一番陽性者が多かったからに他ならない。

IM:アンチドーピング活動の結果、社会との距離が生まれてしまうのは悲しいです。

玉利 もちろんドーピングテストは徹底してやらなければいけない。しかしそれがボディビルを殺すこととイコールになりうる危険性があるのです。われわれが愛しているボディビルを殺してしまうのはダメですよ。だから少しずつ、やっていかないといけない。

IM:それだけボディビル界ではドーピング汚染が広がっているということですね。

玉利 国内で陽性になる選手は毎年います。それでいつも私は恥ずかしい思いをします。私はJOCの評議員をやっていますから、総会では全競技団体が集まるわけです。理事も評議員も。そこで年間の事業報告、会計報告、事業報告の中に、ドーピングテストの年間総数の発表があります。その中の陽性者はボディビルが一番多いのです。一昨年は4人。昨年は1人出ました。これは本当に残念です。

IM:陽性の結果だけを発表するのではなく、陰性についても発表することはできないのでしょうか。たとえばチャンピオンの鈴木雅選手はこれまで50回以上テストを受けているそうです。誰に検査したかということを競技会テスト、抜き打ち含めて結果を公開すれば、いかにアンチドーピングに力を入れているか理解されやすいと思いました。

玉利
そういう流れになれば大いに結構です。ボディビルは常に社会との接点で考える必要があります。日本のボディビルは神秘的だという人もいます。少なくとも国際大会では、これまで日本はドーピング陽性者を出していない。なぜ日の丸を背負った選手は皆クリーンなのか。私はこう言います。それは日本には武士道があるからだと。ただ強いだけじゃない。勝つだけじゃない。それこそスポーツでいえば、ルールを守り、相手を尊敬する。それが武士道だと。

IM:競技としてのボディビルの目標はやはりオリンピックでしょうか。

玉利
私はオリンピックの形式だけにとらわれるわけじゃないんですが、人類スポーツの最高イベントに入っていくことになれは、ボディビルをより普及させるための大きな一歩になります。ボディビルは人間が生んだ文化です。
しかしながら、文化というのは成熟すると、爛熟してむしろ退廃の方に向かう傾向があるともいえる。ボディビルを体づくり、健康づくりに役立てることで、自分自身の人生の可能性を導き出してほしいです「ボディビルは常に社会との接点で考える必要があります」(玉利会長)それを常に原点を失わないものにすることが大事です。大会で上を目指すことだけがボディビルではありません。ボディビルを体づくり、健康づくりに役立てることで、自分自身の人生の可能性を導き出してほしいです。

h_tamari

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